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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)9715号 判決

原告 今野貞美

被告 国

訴訟代理人 横山茂晴 外三名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

原告訴訟代理人は、第一次請求として、「(一)原告と被告との間に昭和三二年四月一日に成立した雇傭契約に基づく法律関係が存在することを確認する。(二)被告は原告に対し金三一五、六八四円を支払え。(三)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び第二項について仮執行の宣言を求め、第二次請求として、「(一)被告は原告に対し金三一五、六八四円を支払え。(二)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び第一項について仮執行の宣言を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二請求の原因

一  当事者間の雇傭関係

1  わが国に駐留するアメリカ合衆国軍隊(以下「軍」という。)の軍人軍属に対する糧食の供給は軍の本来的目的に属するものとして、その費用は、アメリカ合衆国歳出内資金によつて支出され、これに関する労務に従事する日本人労務者については、被告がこれを雇傭し、軍の使用に供するいわゆる間接雇傭形式(以下、この形式により雇傭される労務者を間接労務者という。)が採られ、一方、軍人軍属に対する慰安と休養の供給は軍の本来的目的に属さないものとして、その費用は軍人軍属の拠出による歳出外資金によつて支出され、これに関する労務に従事する日本人労務者については、右資金の運用に当る歳出外資金活動体が直接これを雇傭するいわゆる直接雇傭形式(以下この形式により雇傭される労務者を直傭労務者という。)が採られていた。

2  原告は昭和二七年五月二二日間接労務者として被告に雇傭され、北太平洋地区空軍兵站司令部(元極東空軍資材司令部)の管轄下のフィンカム基地(昭和三一年一月一日立川基地と合同して、立川基地となつた。)にある六四〇〇フッド・サービス・スコードロン(食糧支給中隊)(昭和三一年一月一日以降は二七一〇フッド・サービス・スコードロンと改称された。)の雑役夫(K・P)として、通称コンメスというコンソリテーテッド・エアメン・ダイニングホール(兵員食堂)に勤務していた。

3(一)  ところが、昭和三〇年一一月一日軍の会計規則の改正によつて、それまで軍人軍属に対する糧食の供給に関する労務とされていたもののうち、調理以外の労務は軍の本来的目的の範囲を逸脱するものとして、その労務に従事する間接労務者(雑役夫、給仕、皿洗いなど)の雇傭に関する費用は歳出内資金によつては、支出し得ないことになつた。

(二)  そこで、このような間接労務者、被告及び歳出外資金活動体の三者間の合意により、これらの労務者に対する被告の使用者たる地位を歳出外資金活動体が承継することになつたので、昭和三〇年一一月一日から原告と歳出外資金活動体との間に、雇傭関係(直傭形式)が存続することとなつた。

4  その後、原告は、昭和三一年四月一〇日、直傭労務者の雇傭関係事務を担当する北太平洋地区空軍兵站司令部中央人事局日本人直接雇傭課長(以下、直傭課長という。)高森守義名義で、歳出外資金活動体から、解雇の意思表示(以下、本件解雇という。)を受けたが、その理由は、軍の特別調査機関(オフィス・オブ・スペシャル・インベスティゲイション)(以下、OSIという。)からの要求によるものということであつた。しかし、本件解雇は、後記二において述べるとおり、無効である。

5(一)  そして、昭和三二年四月一日軍の会計規則の再度の改正により、前記のように歳出外資金により支出されていた立川基地における雑役夫ら直傭労務者の雇傭に関する費用が再び歳出内資金をもつて支出されることとなつた。

(二)  そこで、同月三日これら直傭労務者の所属していた全駐留軍労働組合(以下、全駐労という。)東京地区本部立川支部(以下立川支部という。)歳出外資金活動体及び被告の機関である立川渉外労務管理事務所長の三者間にこれら直傭労務者の同意を条件に、直傭労務者に対する歳出外資金活動体の使用者たる地位を被告が昭和三二年三月一日又は同年四月一日にさかのぼつて承継する旨の合意が成立した。そして、原告は、右直傭労務者の一人としてその頃、又は遅くとも本件訴状の送達(その送達の日は昭和三三年一二月一三日である。)をもつて、昭和三二年四月一日から右承継に同意する旨の意思表示をしたのであるから、原告と被告との間には、同日以降雇傭関係が存続しているのである。

二  本件解雇の無効原因

本件解雇は、次に述べる理由によつて、無効である。

1  本件解雇は使用者である歳出外資金活動体の意思に基づかないで行われたものであるから、無効である。すなわち、歳出外資金活動体は、「歳出外資金規則」(アメリカ合衆国空軍省及び陸軍省によつて制定された空軍規則一七六―一及び陸軍規則二一〇―五〇)によつて設立されたものであり、軍の監督を受けるとはいえ、軍とは独立した機関であつて、空軍の直傭労務者との雇傭関係については、極東空軍規範「独立採算制事業体における日本人従業員の使用及び管理」(一九五六年二月三日FEAM四〇―五)が適用されるのであるが、その第一章第一節第一項b及び同第二節第四項aは、「歳出外資金活動体に雇傭される直傭労務者の解雇は、個々の労務者ごとに、歳出外資金活動体の申出により、基地司令官が直傭課長をして行わしめる。」旨を規定している。ところが、原告の本件解雇については、歳出外資金活動体から立川基地司令官に対する申出がなかつたにもかかわらず、同司令官が直傭課長をして本件解雇をさせたのであるから、本件解雇は、使用者である歳出外資金活動体の意思に基づかないものとして、無効である。

2  仮に、右主張が理由がなく、本件解雇が歳出外資金活動体の申出によつて行われたものであるとしても本件解雇は、原告が正当な組合活動をしたことの故をもつてなされたのであるから、不当労働行為として無効である。その理由は次のとおりである。

(一) 原告の組合経歴

原告は、被告に雇傭された後、昭和二七年一一月全駐労東京地区本部フィンカム支部(以下、フィンカム支部という。)(同支部は昭和三一年一〇月全駐労東京地区本部立川支部と合同して、前記立川支部となつた。)に加入し、昭和二八年三月二九日から昭和三〇年三月二七日まで及び昭和三〇年一二月一六日から本件解雇の日までフィンカム支部執行委員であつた。

(二) 原告の組合活動とこれに対する軍の態度

(1) 原告はコンメスから選出された最初のフィンカム支部執行委員として、同職場におけるフィンカム支部組織の拡大のため、労務者に対する組合加入の勧誘に積極的に努力した結果、多数の労務者をフィンカム支部に加入させた。

(2) 当時、フィンカム基地内の職場においては、休憩時間中に組合活動をすることが認められていたのであるが、コンメスにおいてのみ、監督将校ウィッテル大尉(昭和三〇年春まで在任)、その後任マヨーミック大尉及び顧問宋国佑などによつて禁止されており、昭和二八年一一月頃、クラークの平野慎一が休憩時間中に組合活動を煽動したことを理由に、ウィッテル大尉及び宋国佑により、人員整理に藉口して解雇されたことがあつた。これに対し、原告が率先して、その不当である旨の抗議をくり返した結果、右解雇の意思表示が撤回されたことがあつた。

(3) 平野慎一に対する解雇を契機として、コンメスにおいては、フィンカム支部から脱退を申出る者があつた。そこで、フィンカム支部は所轄の立川渉外労務管理事務所とコンメスにおける休憩時間中の組合活動を許可するよう交渉し、一方、原告は、フィンカム基地中央人事局の総管理人佐久間寅之助に同趣旨の申入れをしたところ、同人から、休憩時間中の組合活動が自由であることは、既に同基地の全職場に書面で伝達済みであるが、念のため、コンメスの顧問宋国佑に示して交渉せよといわれて、メモを交付されたので、宋国佑に、それを手交して、同趣旨の要請をしたけれども、許諾を得ることができなかつた。

(4) 原告は、昭和二九年四月、原告が班長の命令に服さず、作業能率が低い上に、軍の行つた衛生映画の上映に参加しなかつたとの理由で、ウィッテル大尉から譴責処分を受けたことがあつたが、その真の理由は原告が組合活動をしたことにあつたので、立川渉外労務管理事務所を通じて、軍に抗議したところ、軍はその後にいたり右処分を撤回した。

(5) 原告は、昭和二九年九月一三日、全駐労が行つた特別退職手当獲得のためのストライキに際し、フィンカム基地第三地区の小隊長として、ピケラインを組織して、活躍した。

(6) 原告は、昭和二九年一〇月頃、日本人監督森田義一が労務者の通勤を著しく困難にするような勤務表を作成したことについて抗議し、同人をしてこれを是正させた。

(7) 昭和三〇年の後半、全駐労執行委員長利波利一らが北太平洋地区空軍兵站司令部中央人事局とコンメスにおける休憩時間中の組合活動の自由を認めるよう交渉したのと併行して、原告は宋国佑に同じ問題について交渉を申し入れた。

(8) 昭和三〇年暮頃からフィンカム基地に新しく下士官用のNCOメス(下士官食堂)が設置されたことに伴い、コンメスから配置転換された労務者のうち、フィンカム支部に所属する者が、NCOメスにおいて、組合員獲得のための勧誘をはじめたところ、NCOメスの監督又は顧問を兼ねていたコンメスの監督マコーミック大尉及び同顧問宋国佑は、昭和三一年二月頃から四月頃にかけて、これら労務者を、逐次、再び、コメンスへ配置転換した。そこで、原告は、右再度の配置転換が不当であるとして、宋国佑に対し、その撤回を求めていた矢先、本件解雇を受けたのである。

(三) 以上の経緯と原告に解雇に値するような理由が全くないことを考えると、本件解雇は、その活発な組合活動の故にかねてから原告を嫌悪していた軍が、原告を職場から排除することによつて、その活動を封じることを目的として行つたものであることは明らかである。

従つて、本件解雇は不当労働行為として無効である。

三  かくて、原告と被告の間には、昭和三二年四月一日から雇傭関係が存続しているところ、被告はこれを争い、原告に対し賃金を支払わない。ところで、原告が勤務を継続していれば、原告の昭和三三年一月から昭和三四年九月までの賃金(基本給、暫定手当及び扶養手当)の月額は別表記載のとおりであつて(昭和三三年一月の賃金は、原告が本件解雇当時支給されていた賃金と同額とし、なお、所定の給与規程により、原告の基本給が昭和三三年四月及び昭和三四年四月に金三三〇円ずつ昇給したはずであるから、これらの昇給分を加算した。)その合計は金三一五、六八四円となる。なお、原告のような間接労務者の賃金は、毎月一日から末日までの分を、翌月一〇日に支払われることになつている。

よつて、雇傭契約に基く法律関係の存在の確認及び前記賃金の支払を求めるため、第一次請求の趣旨記載のとおり判決を求める。

四  仮に、昭和三二年四月一一日以降原被告間には雇傭関係が存続するにいたらなかつたとすれば、原告は被告に対し次のような損害賠償請求権を有する。すなわち、軍の構成員であるOSI係官は、前記二、2記載のとおり、組合経歴を有し、活溌に組合活動をしていた原告を嫌悪し、基地外へこれを排除するため、OSIの要求を拒否する権限のない立川基地司令官及び直傭課長に命じて、本件解雇の意思表示をなさしめ原告から同基地への立入りに必要な通行証を取上げさせたため、原告は、同基地内に出入して、現実に勤務することができなくなつたのである。原告は、現実に立川基地に勤務しておれば、当然被告による前記雇傭関係承継の対象となつたのに、OSI係官の右のような不法行為により、右承継の対象から除外され、昭和三二年四月一日以降被告に雇傭されて、賃金の支払を受け得る期待権を侵害され、その結果、賃金相当額の損害を被つたのであるから、「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う民事特別法」(昭和二七年法律第一二一号)(以下、民特法という。)第一条により、被告に対し、右損害の賠償請求権を有する。よつて、原告は昭和三三年一月から昭和三四年九月までの前記賃金合計三一五、六八四円相当の損害の賠償を求めるため、第二次請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

第三請求原因に対する被告の答弁及び主張

一  答弁

請求原因一、1及び2の事実は認める。同3(一)の事実は認める。同(二)の事実のうち、昭和三〇年一一月一日から原告と歳出外資金活動体との間に雇傭関係が存在していたことは認めるが、その余の事実は否認する。同4の事実のうち、原告が本件解雇の意思表示を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。同5(一)の事実は認めるが、同(二)の事実は否認する。同二、1の事実のうち、歳出外資金活動体が歳出外資金規則によつて設立されたものであること、原告主張の極東空軍規範にその主張のような規定があることは認めるが、その余の事実は否認する。同2の事実は否認する。同三の事実のうち、本件解雇当時の原告の賃金月額は不知。間接労務者に対する賃金の締切日及び支払日が原告主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は争う。同四の事実は否認する。

二  被告の主張

1  被告は、歳出外資金活動体の原告に対する使用者としての地位を承継したことがないから、原告の主張は、その前提を欠き、失当である。すなわち、

(一) 歳出外資金活動体はアメリカ合衆国の補助機関であつて、その運営、管理は、すべて、当該軍隊の司令官(本件では極東空軍司令官)の監督の下に、歳出外資金活動体自らが行うものであつて、同活動体が行う直傭労務者の雇入、賃金の支払、解雇などについて被告は何らの関係も有しない。

(二) 昭和三〇月一一月一日、当時原告の勤務していた六四〇〇フッド・サービス・スコードロンにおける間接労務者の雑役夫ら一〇六名中原告を含む九六名を指名して人員整理すべき旨の軍の要求に基づき、被告は、右九六名全員に対し、予告期間を置き、所定の退職金を支給した上、同人らを解雇した。そして、歳出外資金活動体は、この被解雇者のうち、原告を含む若干名を直傭労務者として新たに雇傭したが、その後、昭和三二年四月一日から原告主張のように、会計規則が改正されることとなつたので、歳出外資金活動体は、これにさきだち、右改正による雇傭制度の変更にそなえるため、二七一〇フッド・サービス・スコードロン(六四〇〇フッド・サービス・スコードロンが改称されたもの)における直傭労務者一六九名のうち一五〇名を昭和三二年二月二八日附で、残り一九名を同年三月三一日附でそれぞれ予告期間を置き、所定の退職金を支給の上、解雇した。

(三) そして、軍は、同年三月五日及び同年四月三日被告に対し、同年二月二八日附で歳出外資金活動体から解雇された直傭労務者一五〇名を同年三月一日附で、同年三月三一日附で同じく解雇された右直傭労務者一九名中一七名を同年四月一日附で、間接労務者として新規採用するよう要求した。

そこで、被告は右要求に従い、右一五〇名及び一七名、合計一六七名と個別的に新たに雇傭契約を締結した。もつとも、その間、右被解雇者から、全駐労東京地区本部を通じて、被告に被解雇者全員を雇傭してほしいとの要求があり、立川渉外労務管理事務所長が、軍に組合側の意見を取次いだことはあつたが、その際、原告主張のような雇傭関係の承継を合意したことはない。仮に、同所長が右のような承継を合意したとしても、被告は同所長にそのような権限を与えたことがないから、右承継の合意は無効である。

(四) 以上の経緯から明らかなように、被告と右一六七名の直傭労務者との間に雇傭関係が存続するにいたつたのは、従前の使用者である歳出外資金活動体による雇傭契約の解除と被告による新たな雇傭との結果であつて、労務者に対する歳出外資金活動体の使用者たる地位を被告が承継したためではない。このことは、前記のとおり、歳出外資金活動体が、予告期間を置き、所定の退職金を支給の上、前記一五〇名及び一九名、合計一六九名の直傭労務者を解雇していること、被告が新たに雇傭した右一六七名の直傭労務者について、歳出外資金活動体における勤続年数が、間接労務者としての退職金の算出、人員整理の基準となる勤続年数に算入されないことになつていることなどの事実からも、明白に看取することができる。従つて、被告が前記直傭労務者の使用者たる地位を承継したことを前提として、原告と被告との間に雇傭関係が存続するものとする原告の主張は誤りである。

のみならず、被告が前記直傭労務者を新たに雇傭するに当たり、雇傭の対象として問題となつたのは、当時立川基地の二七一〇フッド・サービス・スコードロンにおいて現実に勤務していた直傭労務者一六九名であつて、既に歳出外資金活動体によつて本件解雇の意思表示を受け、現実に勤務していなかつた原告が右雇傭の対象として問題とされたことは全くなかつたのである。従つて、仮に、本件解雇の意思表示が無効であるとしても、原告が、被告によつて新たに雇傭されたものと解する余地はない。

2  仮に、原告がその主張のようなOSI係官の不法行為による損害を被つたとすれば、その損害は、原告が本件解雇の意思表示を受けた昭和三一年四月一〇日に同日以降得べかりし賃金を一時に喪失したことによる同額の損害というべきであるから、損害発生後一年以上を経過した後になされた原告の損害賠償の請求は、民特法四条所定の除斥期間満了によつて、許されない。

第四被告の主張に対する原告の答弁及び反論

一  第三、二、1に記載する被告の主張事実は否認する。

もつとも、同1(二)に記載する各日時に、間接労務者又は直傭労務者が被告又は歳出外資金活動体から退職金名義の金員の支払を受けて、解雇の意思表示を受けたことはあつた。しかし、右解雇の意思表示は、被告と歳出外資金活動体との間に行われた雇傭関係承継の手続として、形式的に行われたものに過ぎないし、また、退職金名義の金員は、これらの労務者が右承継を応諾したことに対する対価たる性質を有する一時給与金である。従つて、これらの労務者が形式的な解雇の意思表示を受け、また退職金名義の金員の支払を受けたことは、原告ら主張の雇傭関係の承継を否定すべき、根拠とはならないのである。

むしろ、間接労務者の雇傭関係を規律する「日本人及びその他の日本国在住者の役務に関する基本契約」上、軍が被告に対し特定の労務者を指名して解雇を要求することは認められていないのであるから、軍が昭和三〇年一一月一日被告に対し、真実原告を含む間接労務者九六名の指名解雇を要求するはずがないこと、被告又は歳出外資金活動体によつて、間接労務者又は直傭労務者が解雇されたとする被告主張の日と、歳出外資金活動体又は被告によつて、これらの労務者が実際に新たに雇傭されたとする被告主張の日との間には、ずれがあるのに、これらの労務者がその間引続いて現実に勤務していたこと、更に、被告の主張とは逆に、被告との間に雇傭関係が存続するにいたつた直傭労務者について、歳出外資金活動体におけるその勤務年数が間接労務者に対する人員整理の基準とされる勤続年数に算入されることになつていることからみて、前記雇傭関係の承継が首肯されるのである。

二  第三、二、2に記載する被告の主張事実は否認する。

原告の主張するOSI係官の不法行為による賃金相当額の損害は、昭和三二年四月一日以降今日にいたるまで、継続して時時刻々発生しているのであるから、被告の除斤期間満了に関する主張は誤りである。

第五立証〈省略〉

理由

一  原告の第一次請求について

原告が、間接労務者として被告に雇傭され、極東空軍資材司令部(現北太平洋地区空軍兵站司令部)の管轄下のフィンカム基地(昭和三一年一月一日立川基地と合同して、以後立川基地となつた。)にある六四〇〇フッド・サービス・スコードロン(食糧支給中隊)(昭和三一年一月一日二七一〇フッド・サービス・スコードロンと改称されたもの)の兵員食堂(通称コンメス)において、雑役夫として勤務していたところ、昭和三〇年一一月一日軍の会計規則の改正によつて、それまで、軍の本来的目的に属するとされていた糧食の供給に関する労務のうち、調理以外の労務は、軍の本来的目的の範囲を逸脱するものとして、その労務に従事する間接労務者(雑役夫、給仕、皿洗いなど)の雇傭に関する費用をアメリカ合衆国の歳出内資金によつて支出し得ないこととなつたため、原告を含めたこれら労務者については、同日以降、被告との間の雇傭関係が消滅し、軍人軍属の拠出による歳出外資金の運用に当る歳出外資金活動体との間に直傭労務者として雇傭関係が成立存続するにいたつたこと(以下、右雇傭関係の消滅及び成立を第一次雇傭切替という。)(第一次雇傭切替が、原告の主張するように、被告と歳出外資金活動体との間における雇傭関係の承継によるものであるか、それとも、被告の主張するように、被告による雇傭の解除と歳出外資金活動体による新たな雇傭の結果によるものであるかについては、ここで論ずる必要はない。)、原告が昭和三一年四月一〇日歳出外資金活動体から本件解雇の意思表示を受けたこと、そして、その後、昭和三二年四月一日軍の会計規則の再度の改正により、歳出外資金によつて支出されていた立川基地における雑役夫ら直傭労務者の雇傭に関する費用が、再び歳出内資金によつて支出されることになつたことは、当事者間に争いがない。

そこで、原告は、右のような軍の会計規則の再度の改正があつたため、昭和三二年四月三日被告、歳出外資金活動体及び立川支部の三者間に、右雑役夫ら直傭労務者の同意を条件に、同年三月一日又は同年四月一日にさかのぼつて、これら労務者に対する歳出外資金活動体の使用者たる地位を被告が承継する旨の雇傭関係承継の合意が成立したところ、本件解雇は無効であり、原告は、右直傭労務者の一人として、四月一日から右承継に同意するとの意思表示をしたので、被告との間に雇傭関係が成立存続するにいたつた旨を主張するので、果して、原被告間にこのような雇傭関係が存続するかどうかについて、以下に判断する。

当事者間に争いのない事実、証人舎夷正明の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証の一、二、第三、第四号証、同証言及び証人鈴木武夫の証言(一部)に弁論の全趣旨を総合すると、次のような事実が認められる。

前記のように、間接労務者であつた雑役夫、給仕などの労務者は、第一次雇傭切替により、昭和三〇年一一月一日以降は、直傭労務者として歳出外資金活動体によつて雇傭されていたが、その後、歳出外資金が不足し、歳出外資金活動体によるこれら直傭労務者に対する雇傭の継続が困難となつたので、軍の再度の会計規則の改正により、これら労務者の直接雇傭制度が廃止され、再び歳出内資金による間接雇傭の制度に切替えられることとなつたため、北太平洋地区空軍兵站司令部は、その管轄下の立川基地及び昭和基地の兵員食堂に勤務するこれら直傭労務者については、定員の関係上、当時、歳出外資金活動体と雇傭関係にあつた直傭労務者二一五名のうち一六三名(立川基地一五〇名、昭和基地一三名)を間接労務者として兵員食堂の雑役夫に採用することに決定した。そこで、昭和三二年二月一七、八日頃から、軍、立川渉外労務管理事務所、立川支部の三者で、右直傭労務者二一五名の人事措置(間接労務者としての賃金その他の採用基準、不採用者の退職など)に関し、協議が続けられた。その間、歳出外資金活動体は、会計規則の改正にそなえるため、右直傭労務者二一五名に対し、解雇の予告を通告したが、うち二一名は、同年三月一日から、他の部隊(北太平洋空軍兵站司令部の管轄外であるが、立川基地内に附置されている部隊)の食堂関係の職場に採用されることとなつた。そして、右直傭労務者二一五名から右別途採用者二一名を除く一九四名のうち、立川基地の兵員食堂に勤務する直傭労務者は一八〇名であつたが、軍は、これら一八〇名につき、その氏名及び採用日時(昭和三〇年一一月一日の第一次雇傭切替により、間接労務者から直傭労務者となつた者は、その間接労務者として採用された日時、第一次雇傭切替後直傭労務者として採用された者は、その採用日時)を記載した名簿(乙第三号証)を作成し(この名簿中には、原告についての記載はない。)、そのうちから、前記定員上立川基地の兵員食堂の雑役夫として採用可能な人員一五〇名を採用日時による先任順位に従つて採用することとしたが、同基地内の他の職種、職場で勤務することを希望し、テストによりその適性を認められ者たが五名、窃盗容疑のある者が一名あつたので、これら合計六名の者を除き、先任順位一番から同一五六番までの一五〇名を間接労務者として立川基地の兵員食堂の雑役夫に採用することを決定した。そこで、歳出外資金活動体は、右一五〇名の直傭労務者に対して昭和三二年二月二八日附で解雇の意思表示をし、軍は、同年三月五日被告に対し、同月一日附で右一五〇名を前記雑役夫として雇傭することを要求し、被告はこれに応じ、同月一日附で右一五〇名を雇傭した。立川基地の兵員食堂勤務のその余の直傭労務者二四名(すなわち、前記一八〇名のうちの先任順位一五七番以下の者)のうち、窃盗容疑のある者、同基地内の他の職種、職場で勤務することを希望する者、退職を希望する者などを除いた一七名につき、軍は、暫定的な人事措置として、雇傭期間を二箇月とする臨時雇の間接労務者として立川基地の兵員食堂の雑役夫に採用することに決定した。そこで、歳出外資金活動体は、右一七名の直傭労務者に対して同年三月三一日附で解雇の意思表示をし、軍は、同年四月三日被告に対し、同月一日附で右一七名を前記臨時雇の雑役夫として雇傭することを要求し、被告は、これに応じ、同月一日附で右一七名を雇傭した(以下、以上に認定した歳出外資金活動体と直傭労務者との雇傭関係の消滅及び被告とこれら労務者との雇傭関係の成立を第二次雇傭切替という。)。以上の事実が認められ、この認定に反する証人鈴木武夫の証言は採用しない。

以上認定の経緯によれば、第二次雇傭切替の対象とされたのは、当時、歳出外資金活動体と雇傭関係にあつた立川基地及び昭和基地の兵員食堂勤務の雑役夫、給仕などの直傭労務者であつて、既に、本件解雇の意思表示を受け、歳出外資金活動体から同活動体と雇傭関係にある直傭労務者とは認められていなかつた原告は、右雇傭切替の対象から除外されたことが明らかであるから、第二次雇傭切替の法的性格をどう考えるにせよ、また、本件解雇の効力いかんにかかわらず、右雇傭切替により、原被告間に新たに雇傭関係が生じたものと認めることはできない。

よつて、その余の原告の主張を判断するまでもなく、原被告間の雇傭関係の存在確認及びその存在を前提とする原告の賃金支払の第一次請求は、理由がない。

二  原告の第二次請求について

第二次雇傭切替の対象となつたのは、当時歳出外資金活動体と雇傭関係のあつた立川基地及び昭和基地の兵員食堂勤務の雑役夫、給仕などの直傭労務者であつて、原告は、立川基地の兵員食堂に勤務する雑役夫であつたが、右雇傭切替当時は、既に本件解雇の意思表示により、歳出外資金活動体と雇傭関係にある直傭労務者とは認められていなかつたため、右雇傭切替の対象とはならなかつたこと、第二次雇傭切替の対象となつた直傭労務者のうち、立川基地の兵員食堂に勤務する直傭労務者一八〇名については、軍が採用日時による先任順位に従つて採用することとし、他の職種、職場で勤務することを希望する者及び窃盗容疑ある者など特段の事情の存する者を除いて、先任順位一番から同一五六番まで一五〇名を間接労務者として立川基地の兵員食堂勤務の雑役夫に採用することを決定し、被告が軍の要求に従つて、昭和三二年三月一日附で右一五〇名を前記雑役夫に雇傭したことは、既に述べたとおりである。そして、前掲乙第三、第四号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告の採用日時(第一次雇傭切替により、間接労務者から直接労務者となつた原告については、その間接労務者として採用された日時)は、昭和二七年五月二二日であつて、原告が本件解雇の意思表示を受けることなく、歳出外資金活動体と雇傭関係を継続していたとすれば、昭和三二年三月一日附で行われた第二次雇傭切替の際の原告の採用日時による先任順位は、八〇番と八一番の間であることが認められる。

そこで、若し、本件解雇の意思表示を受けることがなかつたとすれば、前記のような特段の事情の存したことが認められない原告は、第二次雇傭切替にあたり、当然、同年三月一日附で、被告に、立川基地の兵員食堂勤務の雑役夫として雇傭されたものと認めるのが相当である。従つて、仮に、OSI係官が、不当労働行為の意図をもつて、立川基地司令官及び直傭課長(その存在につき当事者間に争いのない極東空軍規範「独立採算制事業体における日本人従業員の使用及び管理」第一章第一節第一項b及び同第二節第四項aの規定参照)をして本件解雇の意思表示をなさしめ、且つ、当時において、第二次雇傭切替が予想されていたものとすれば、原告は、軍の構成員であるOSI係官により、違法に、昭和三二年三月一日以降被告に前記雑役夫として雇傭され、賃金の支払を受け得る期待権を侵害されたものということができ、原告は、民特法第一条により、被告に対し、得べかりし賃金相当額の損害賠償を請求することができるものといわなければならない。

しかし、民特法第一条による損害賠償の請求は、同法第四条により、損害発生の時から一年以内にしなければならないところ、同条の趣旨は、加害者が安全保障条約に基いて日本国内にある外国軍隊の構成員又は被傭者であり、損害賠償責任者が国であることを考慮し、このような損害賠償の請求権については、できるだけ速やかにその法律関係を決済するため、短期の除斥期間を定めたものと解されるから、不法行為が終了した後、その行為による損害が継続して発生する場合は、現実に損害が発生した以上、当時これに関連継続して発生することが通常予想し得られる損害は、すべてその時に発生したものとして、右除斥期間は、その継続的全損害について、その時から進行するものと解するのが相当である。本件の場合、原告の前記雇傭期待権の侵害による賃金相当額の損害は、その雇傭が行われた昭和三二年三月一日に発生し、以後関連継続して発生することが当時通常予想し得られた損害であると認められるから、その継続的全損害につき、原告の損害賠償請求権の民特法第四条による一年の除斥期間は同日から進行し、本訴の提起された昭和三三年一二月四日(本件記録上明らかである。)には、既に満了したものといわなければならない。

よつて、原告の第二次請求も、その余の主張を判断するまでもなく、また、理由がない。

三  以上のとおり、原告の請求はすべて理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田豊 西岡悌次 松野嘉貞)

(別表省略)

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